かみじょー作小説公開
タイトルは【く~にょん30sec】です。
3月16日からのオンエアでラジオドラマしてます。
今回のお話は、30秒しか生きられない謎の生物”く~にょん”から
死生観を考えるお話。
お話のタッチは全編ソフトなタッチになってますが、
生きるってなんなの?
その長さは?
ということを考えながら5年前に執筆しました。
3月は出会いと別れの季節。
別れって死別ではなくても悲しいものです。
でも、それを直視しなきゃいけない時がある。
というわけで、どうぞ♪
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く~にょん30SEC
く~にょんは30秒しか生きられない。
水槽の中にパウダー状の粉末を入れる。
かき回すと
フニョ~ンと音がしてピンク色の丸い物体が現れてみるみる大きくなり、スイスイと泳ぎだす。
これはく~にょん。
愛くるしい動きと
誕生する時の音が見るものを癒してくれた。
でも。
三十秒すると……
ポンっと音を立てて消えてしまう。
そう、く~にょんは三十秒しか水中に存在できない。
初めてこれを育てた時にぼくは
「線香花火みたいだなぁ!」と感じた。
三十秒は短い。
気持ち良く泳いでいたく~にょんの命は儚い。
ぼくはもう一回粉末を入れかきまぜる。
またしても
フニョ~ンとかわいらしい音がして今度は黄色いく~にょんが誕生した。
く~にょんは気持ち良さそうに泳いでいた。
もっといてほしいって思った。
ちょうど線香花火の火の玉がバチバチ音をたてて火花を散らして燃えている時に、その花火をもっと見ていたいを
思うように。
あっという間に三十秒。
く~にょんはまた儚い音とともに消えてしまった。
胸が痛くなった。
がんばれっ!く~にょん。エールを送っていた。
どうしても三十秒以上く~にょんを見たくて色々なモノを入れてみた。
栄養剤。
塩。
キャットフード。
金魚の餌。
どれも効果なく三十秒の壁は厚かった。
ぼくは考えた。
自分の人生が三十秒だったら。
短すぎる。
何ができるだろう?
まともなことは何もできない。
あっという間に消えてしまう運命。
けっこう悲しくなった。
だったら三十年だったらどうだろう?
やはり短いよな。
六十年だったら?
三日だったら?
けっきょくどこまでが
「長い」に入って
どこからが「短い」のかぼくにはわからなかった。
そんな境界線はなかった。
色とりどりのく~にょんを作っては消え、消えてはまた作ってぼくは三十秒の至福を満喫した。
すぐに粉末はなくなってしまった。
限られた時間をく~にょんは泳ぐ。
何かをぼくに訴えかけながら。
愛らしいその姿にぼくは笑顔を浮かべ、
三十秒後には少し泣いた。
ぼくも限られた時間を泳ぐ。
泳いで泳いでその岸にたどりつくまで。
く~にょん。
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