海辺の墓地
ポール・ヴァレリー作
現代語訳とかみじょーの注釈。
映画、風立ちぬをちょうど今しがた見終わって
人はなんで生きるのだろう。
どこに向かうのだろう。
何を為すべきなのだろう?
と思いました。
本屋さんに並ぶ多くの書物はその明確な理由を記してはいない。
それは人それぞれその応えが違うから。
だからこそ、何かに触れ芸術を味わい、
美しい華色を見、誰かと話し
ブレない人生を歩みたい。
そう感じたので、
記しておきます。
この記事はこんな方に読んで欲しい。
・人生を迷っている方。
・立ち上がりたくても勇気が出ない方。
・決心を決めたい方。
ではどうぞ。
白い鳩たちが歩く、この静かな屋根は、
松の木々や墓石の間で、脈打っている。
正しい者、「真昼」が、そこに火で作り出す
海を、海よ、常に寄せては返すものよ!
おお、思索の後の報いよ
神々の静けさへの長き凝視よ!
⇒この詩のタイトルは海辺の墓地。
海、海が寄せては返すのは、人生の縮図のような、砂の城の上で生きる人間の儚さを
表現している。
しかし、
「メメント・モリ」
死を想え。
死に対して意識がないと、ただ惰性での生。
そんな質のない生への執着だけしかなくなってしまう。
一体何のために、生きるのか?
一体誰のために、生きるのか?
それは死という収束点があるからこそ、
有限だからこその輝かしい目標、最終地点を見据えられるということだろう。
目に見えない泡の数知れないダイヤモンドを焼き尽くす
鋭い光の何という澄んだ仕事か、そして、
何という平和が抱かれるように思えることか!
底知れない海の上に太陽がたたずむ時、
永遠から生まれる純粋な作品、
「時」はきらめき、「夢」は知となる。
⇒海には永遠がある。
始まりもある、そして終わりもある。
海原を煌めく光の反射は生の情熱情念、生そのものだ。
不動の宝よ、ミネルヴァのつつましい神殿よ、
静けさの集まりと、目に見える堆積よ、
そびえ立つ水よ、炎のヴェールの下の
多くの眠りを、君の中に守る「目」よ
おお、私の沈黙!… 魂の中にそびえる建物よ、
いや、千の瓦の黄金の棟、「屋根」よ!
⇒不動の宝、なんてものは実際はないのかもしれない。
全てが有限の中にある借り物だと知ること。
そうすれば、もっと人は優しくもなれるし、
人を思いやれる。
千万という甍を並べるのは他人ではなく、言うならば兄弟。
血の絆はなくても生きる同胞。
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ただひとつの溜息がまとめる「時」の神殿よ、
私の海への凝視に、ただ包まれた、
この純粋な地点に、私は登り、親しむ。
神々への私の至高の捧げ物のとして、
静かなまたたきが、あの高みの上に(注)
この上ない蔑みを撒き散らす。
⇒時はため息のように短く、
そしてそこに留まることはできない。
どこかに誰もが持ちえるホームベース、故郷、帰る家
きっとそういうものがどんなに離れていても瞼の裏にはいつも映写されている。
果実が悦びに溶けてゆくように、
その形が消えてゆく口の中で
不在を歓喜に代えるように、
私はここで、私の未来の煙を吸い込む、
そして、焼き尽くされた魂に、空は歌う
ざわめく海辺の変わりゆく姿を。
⇒食事というものは食物を採り込む事だけではない。
時間を人は食している。
それが生きる本質。
苦い時間、甘いとき、血が沸き立つような濃縮された時
異国の風、そして
どこにいても変わらないものを持っていること。
自分の足場というものは、結局それまでに得たものではなくて、
はじめから与えられたものだということをいつか理解できる。
晴れた空よ、真の空よ、変わりゆく私を見よ!
多くの驕りの後に、力に満ちながらも
多くの不可思議な怠惰の後に、
私はこの輝く空間に身を任せる、
死者たちの家々の上を私の影が過ぎて行く
そのかすかな動きを私に馴染ませながら。
⇒死は時を止める。
生は時を食べる。
生きるってことは、もう時が止まってしまった同胞に
希望を与えることになる。
子孫がそれでも血を絶やさないのは、今はなき先祖始祖への希望の賛歌となる。
夏至の松明に魂をさらされて、
私は君を支持する、非情な武器を持つ
光の、賞賛すべき正義を!
君の始まりの場所に、君を純粋なまま返そう:
君自身を見つめよ!… だが、光を返すことは
暗い影の半分を想わせる。
⇒どこへ人は帰るのか?
暗闇?
無?
実際はそうではない。
旅路の終わりはそんな淋しいところではない。
だからこそ、賑やかな終着点へのみやげ話をつくるために
人は空虚感に飲まれそうになっても
まだ懸命に足掻く、いや飛びたつのだ。
おお、私だけのために、私だけで、私自身の中に、
心の側の、詩の源で、
虚無と純粋な出来事の間で、
私は内面の大いなる木霊を待っている、
苦く、暗く、響く貯水槽が、
常に未来の空洞を魂の中で鳴り響かせるのを!
⇒自分という単体では紡げない時間の尺度がある。
誰かにその思いも熱も残す、それが後継者であり、家族であってほしい。
君は知っているか、葉むらの偽りの囚われ人よ、
この痩せた格子を蝕む入り江よ、
私の閉じた目の上の、まばゆい秘密よ、
どんな体が、私を怠惰の果てに引きずるのか、
どんな額が、その体をこの骨の大地に引き寄せるのかを?
そこでは、ある輝きが私の不在たちを考える。
⇒理解すること。
人生という課題には冒険には
明確な指示書なんか存在しない。
それを見つけるのも一興。
自分で決めるのもいいだろう。
何かに支配されし同胞よ。
社会の惰性に組み込まれし人々よ。
誰もがきっとこう言って欲しがっている。
「君の人生の支配者は君だ。」
「君がオーナーだ。」
「屈するな。選べばいい。」
「生きるとは、何かに隷属することではない。己の脚で立ち上がることだ。」
「立ち上がれ。」
閉じられ、聖別され、物質の無い火に満ちて、
光に捧げられた、この地上のかけら、
この地は、私に相応しい、炎で支配され、
金と、石と、暗い木々で作られ、
多くの影の上で、多くの大理石が揺れている、
ここでは、私の墓石たちの上で、忠実な海が眠っている!
⇒この世を支配しているもの
財金名誉権利知名強欲権限
オートマチックに時の駆け足についていこうとすると
足元をすくわれる。
本当に欲しかったものはそれかい?
ずっと探していたものはみつかった?
そんな問いかけをしている自分へ目を向ける時間の大切さよ。
きらめく犬よ、偶像崇拝者を追い払え!
羊飼いの微笑みを浮かべた隠者である、
私が、神秘の羊たち、私の静かな墓の白い群れに、
長いこと草を食ませている時に、
彼らから遠ざけろ、用心深い白い鳩たちを、
虚しい夢を、物見高い天使たちを!
⇒外に救いを求めるな。
外に怒りの矛先を向けるな。
きっと全ては中で完結している。
自分の中にあるもの、膨大な図書館、データベース
そして、直感。
それに賭けてみるのが、まさに青春なんだろう。
ここに来れば、未来は怠惰だ。
澄んだ虫が渇きをかき鳴らす。
全ては焼かれ、壊され、大気の中で
私の知らない何か厳かな精となる…
不在に酔えば、生命は広大で、
苦悩は甘美で、精神は明るい。
⇒生命の大きさは計り知れない。
埋没された自分よ。
忙しさに忘れた到達点よ。
怠惰に生きた80年より、
熱苦しく生きた5年を愛したい。
隠された死者たちは、まさしくこの土の中にいて
この土が死者たちを再び暖め、彼らの神秘を乾かす。
あの高い「真昼」よ、動かない「真昼」よ
自らの中で自らを考え、自らに相応しい…
完全な頭脳と完璧な王冠よ、
私は君の中に秘められた変化だ。
⇒天頂に輝く太陽が示す真昼の時間。
これは人生のピークを示している。
どこがピークなのか、
その絶頂をどう生きるかがこの旅の土産となる。
時間は少ない。
目を覚ませ。
自分がやりたいことをやるために生まれてきた。
君の恐怖を抑えられるものは、私しかいない!
私の後悔、私の懐疑、私の抑制は
君の巨大なダイヤモンドの傷なのだ…
だが、木々の根元のおぼろげな人々は、
大理石でひどく重い彼らの夜の中で
すでにゆっくりと君の側にまわっていった。
⇒しかしやりたいことがあっても行きたいことがあっても
足かせになるのはいつも恐怖。
その恐怖に恐れおののいていても時間は過ぎる。
試す試さないに関わらず川の流れは止められない。
もう恐れるな。
さぁ出発だ。
彼らは厚い不在の中に融けた、
赤い粘土は白い種族を飲み込んだ、
生命の恵みは花々の中に移った!
どこにあるのか、死者たちのなじみの言葉は、
個人の技は、独自の魂は?
かって涙が生じていた場所に、うじ虫が巣を作る。
⇒吟味している程の余白がいつまでも君のキャンバスに残っていると人は言う。
惰性で塗りつぶすな。
果実も時を逸すれば腐る。
人の生も時も逸すればただただ廃れ落ちるだけ。
くすぐられた娘たちの高い叫び声、
目、歯、濡れた目蓋、
火と戯れる魅力的な乳房、
受け入れた唇に光る血、
指が守る、最後の贈物、
全ては地下に行き、遊戯の中に戻る!
⇒呼び声がする。
きっと聞こえている。
自分が自分に呼びかける声。SOS
炎を消すな。
直感を疑うな。
恐怖に慄くな。
立ち向え。
そして、偉大なる魂よ、人の目に波と金がここに作る
あの偽りの色をもはや持たない夢を
あなたは願うのですか?
あなたが霞みとなる時にも、あなたは歌うのですか?
行け! 全ては逃げ去る! 私の存在は浸みとおり、
神聖な苛立ちも、やはり死んでゆく!
⇒誰かの夢に踊らされるな。
自分の歌を謳え。
謳歌するのは自分にしかない生。
黒と金で飾られた痩せた不死よ、
月桂冠を恐ろしく戴いた慰め人よ、
死から、母の乳房を作るものよ、
美しい嘘と敬虔な策略よ!
この虚ろな頭蓋と、この永遠の笑いを
誰が知らないか、誰が拒まないか!
⇒考え方一つで生涯は変わる。
こうも言える。
考え方一つで、何度でも生き直せる。
土深い父たちよ、住む人の無い頭蓋たちよ、
たくさんのシャベルの重みの下で、
土となり、私たちの足音も聞き分けられず、
真に蝕むもの、反論の余地のないうじ虫は、
墓碑銘の下に眠るあなた方のためでは全くなく、
生命を食べて生き、私を去ることは無い!
⇒墓地に埋葬される日、君はどんな心地がするだろう。
安らぎ?解放?
とんでもない。
眠る為に生きるのではなく、
進むために生きる。
または、残すために生きる。
最後の就寝を前に
ただ為すべきを為す。
おそらく、私自身への愛か、憎しみか?
その隠された歯は、すべての名前が
それに相応しいほどに、私に近い!
構うものか! そのうじ虫は、見、望み、夢見、触れる!
私の肉体を気に入り、寝床の上でまでも、
私はこの生き物に所属して生きている!
⇒この肉体に宿るものの所在を誰も知らない。
それを自分と名義づけて
そう思ってその人生を生きる。
旅が終わったらこの自我ともお別れ?
それはわからない。
しかし、わかるのは、この自我は生涯の友であるという事実。
ゼノンよ! 冷酷なゼノンよ! エレアのゼノンよ!
君はこの翼のある矢で私を射た
唸り、飛び、飛ばない矢で!
矢の音は私を産み、矢は私を殺す!
ああ!太陽… 大股なのに動かないアキレスという
この魂にとって、何という亀の影なのか!
⇒亀なのかもしれない。
大いなる宇宙という視点から見れば、人も亀も大差なく映っている。
亀だ人だ。
そんなことに囚われない。
自分は自分。
ここからが好き
否! 否!… 立て! 続きゆく時代の中に!
打ち砕け、私の肉体よ、この物思う姿を!
吸え、私の胸よ、風の誕生を!
海が吐く爽やかな風が、
私に、魂を返す… おお、潮風の力よ!
波に向って走るのだ、生き生きとほとばしるために!
⇒風がそう、吹いている。
風とはまさに契機きっかけチャンス好機思いつき閃きの全て
風が吹いたなら、あとは進むだけ。
そうとも! 生まれながらに荒れ狂う性の偉大な海よ、
豹の毛皮と、太陽の千また千の偶像の
孔を穿たれた古代の兵士のマントよ、
己の青い肉体に酔い、
沈黙に似たどよめきの中で
輝く君の尾を再び噛む、絶対のヒドラよ、
⇒風が人を進める。まだ未踏の地へ可能性へ向かわれる。
凪に負けるな。人の嘲り笑う姿は放っておけば鳴り止む。
旅立ちの支度をしろ。
風が起る!… 生きてみなければならない!
広大な風が私の本を開き、また閉じる、
波は飛沫となり、岩々から勢いよくほとばしる!
飛べ、すっかり目をくらまされたページよ!
波よ、打ち破れ! 喜びあがる水で、打ち破れ
三角帆たちがついばんでいた、この静かな屋根を!
⇒生きてみないことには、その風の先にあるものを見られない。
現代日本という屈折し鬱憤も晴らせずただ忘却に酷使してきた魂。
まとめ
壁があるならぶち破れ。
誰も私を阻む波になんてなれやしない。
さぁ出航だ。港よさらば。
そして、冒険だ。
挑戦だ。
仲間を探して
そして青い空は変わらない。
白い雲も輝く太陽も。
あとは、おまえがその魂で狼煙を上げるだけだ。
writer:かみじょー
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