痛みキャンディ第三話
ドラマゴーストライターを最近まで見てました。
あのドラマで一番僕がココロに来たのは、
人は書きたい!という渇望に逆らえないこと。
誰しもが作家であり、そして人生というものは奇想天外な小説。
よく現実は小説よりも奇なり。といいますが、
人の数だけ世界がある。
つまりは、その世界の数だけ物語も生まれていくってことですね。
この小説を書いた2003年頃の僕は社会人一年目でした。
今思えば語彙力も経験値も少なかったので、読み返してみると奥行きがなく一辺倒な感じがします。
しかしあの頃は今は鎮火してしまったはずの「書きたい!」というシンプルな情動、いや衝動がありました。
2015年はブロガーとして記事を書く傍ら、もっかい小説を書いてみたい!と思ったので、
改めて「恥」ではありますが、10年前の作品を再掲載していきたいと思います。
痛みキャンディ第三話公開
闇の中に何かを探すことは一片の勇気と決心があれば容易にできる……
昔誰かにおれはそう言われた事を思い出した。
夢の中でおれは今日の出来事を反芻していた。
死の痛み。
別れの哀しみがちょっぴり分かって……
怖くなった。
前途はまだ暗い。
おれは…
おれはいつになったらこの暗闇を這い出せるのだろうか。
答えは出ない。
それでよかった。
そんな闇をいつしか好むようになっていたから。
朝になると自然に目が覚めるのは何でだろう?
毎朝決った時間になるとおれの1日のタイマーが作動して活動を始める。
昨日はわかったその痛みもこんな朝はぼんやりと霞んでしまう。
おれにはまだわからない。
今日もクゥは元気よく飛び跳ねている。
今日もクゥの朝飯を用意してからおれは目的のない徘徊を始める。
たまにはクゥと戯れて1日をおわらせてもよかった。
しかし何故かおれはいてもたってもいられなくなり、外の世界へと吸い込まれてゆく。
今日も途方もない経路でひたすら歩いた。
ぼんやりしながら。
傍からみたら不審者か目的のない暇人としか映らないだろう。
この行動がおれができる唯一の自分自身へのセラピーのつもりだった。
夕方気が付くと駅にいた。
何処をどう歩いたのだろう。
夕焼けは見たくない。
何か張り裂けそうになるから。
きれいに紅く街を染めながら何かを訴えかけてくる夕焼け空。
そんな空色におれは目を向けないように駅の待合室で腰を降ろした。
そこには疎らに人が誰かを待ち侘びていた。
ある者は忙しなく、また他の男女は出会いを心から歓びあいながら。
おれの横にはおじいさんが疲れた表情で腰を降ろしていた。
その表情は何処か諦めが交じった哀しいものだった。
「まだこんのか…」
ため息混じりに煙草の煙を吐き出した。
誰かを待っているのだろう。
一瞬瞳が涙色に光るのをおれは見逃さなかった。
待っている誰かは来ないのかもしれない。
おれはポケットから飴を取り出した。
何かがやはりまたおれの心を突く。
それは淋しさか…
それとも。
待つ人の孤独は期待と背中合わせだ。
その孤独が大きい程、出会った時の歓びは大きい。
時間や距離という隔たりがあれはある程愛しい出会い。
待ちわびるその瞬間は痛みの中藻掻き苦しむのだろう。
いつ来るか。
いつ来るか。
時計と改札ばかりを気にしながら。
それは強い約束ならその分だけ待つ淋しさも一層膨らむ。
おれは思い出した。
遥か昔、保育園で。
母を待ちわびていた夕暮れ時。
その日母は残業でいくら待っても迎えにこなかった。
最初は友達と待つことも忘れ遊んでいた。
しかし
段々と一人二人と優しい表情の迎えに飛び切りの笑顔で友達は帰ってゆく。
おれはそれを悔しい思いで見送った。
そしていよいよおれだけになった。
道を眺めても迎えは来ない。
あの優しい手でおれを握り締めてくれる母の姿はない。
おれは不覚にも泣きだしていた。
「お母さん…」
涙で景色も見えなくなった。
暗くなる闇を恐れた。
おれは忘れ去られた存在なの?
必要とされない子なの?
涙は止まらない。
どれだけ…
どれだけ泣いただろうか。
おれを呼びながら駆け寄る母の姿が見えた。
そしておれはその胸に飛び込み顔を埋めた。
あの安心感を今まで忘れてしまっていた。
あの無限の愛情も優しさもいつしか求めなくなっていた。
壁をつくってしまった。
愛を拒む強がりでどれだけ母を哀しませただろう。
もう後悔しても遅すぎる。
もう過去は帰ってこないから。
飴の魔力は強大だ。
おれは不覚にもまたもや涙を流す。
隣なりのおじいさんも心配そうにおれを見つめる。
おれは涙を拭きもせずに待合室を出ようとしたその時…
「おじぃちゃぁん!」
と5才くらいの女の子が隣なりにいたおじいさんに駆け寄った。
後ろからは40代に差し掛かった位の品の良い女性が立っていた。
「父さん。すみませんでした…」
女性は涙目でおじいさんを見つめた。
「ずっと待っておったよ。」
そう言うと満面の笑みで孫娘を抱き締めた。
よかった…
迎えが来たんだな。
そのおじいさんの表情が遠い思い出の中の母と重なった。
胸が熱くなった。
おれは何かを思い出したのだろう。
それは痛みの中に隠れたやさしさだったに違いない。
クゥの待つアパートへとおれは向かった。
writer:かみじょー
痛みキャンディ続きはこちら
・痛みキャンディー第二話
・痛みキャンディ第三話
・痛みキャンディ第四話
・痛みキャンディ第五話
・痛みキャンディ第六話
・痛みキャンディ第七話
・痛みキャンディ第八話
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